Time Paradox
「私ずっと不思議に思ってたんだけど、どうしてジャックさんとセドリックさんは私に敬語を使うの?」

「…それは…私達が案内をするという仕事だからでしょう。」

ジャックのどきまぎとした態度と解答に違和感を感じたリリアーナは、首を傾げていた。

「…でもそんな仕事、聞いたことないわ。だって普通、新居までの案内なんて不動産屋がするし、不動産屋だって物件の下見の時にしか案内しないわ。」

そう断言したが、考え込んでしまったジャックを見かねて、リリアーナは自信がなさそうに付け足した。

「ごめんなさい、あっちに無いだけでこの街にはあるのかも…。でも私、ジャックさんとはだいたい同い年くらいだし、敬語使わない方がいいんじゃないかって思って…。」

リリアーナがそう提案すると、ジャックはしばらく考えた後、大きく頷いた。


「じゃあ決まり!ジャックさんとは今日から友達ね!」

「…友達ならさん付けおかしいだろ?」

「それもそうね!よろしくね、ジャックさん…じゃなくて…ジャック!」

何となく名前を呼ぶのが恥ずかしくなってしまったリリアーナは、ジャックの顔をまともに見ることができなくなってしまっていた。


「…よろしく、リリアーナ。」


暗いところがあまり好きではないリリアーナだが、この時初めて夜で良かったと思った。



「あの…今日はありがとう!この服のお金も今返した方が…」

「それ、似合ってる。就職祝いみたいな物だから受け取って。」

リリアーナの声を遮ったジャックは、言いながら目を逸らした。

「…ありがとう。」


「あ、またスタート地点に戻ってきたみたいだな。」

ジャックが言うと、最初に2人が乗った桟橋が見えてきた。


「…どうしてこのボートはオールもないし、スタート地点にも戻れるんだろう?」


リリアーナは呟いたが、ジャックは答えずに話題を変えた。


「降りる準備はできた?」

「…うん。」


そうして2人は船を降り、モンフォワーシュ観光は幕を下ろした。
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