Time Paradox
翌朝、リリアーナはアドルフの胸の中で目を覚ました。

アドルフはもうとっくに目覚めているようで、リリアーナが抜け出そうとするとより強く締め付けた。

「ちょっ…アドルフ!」

だがアドルフはこのじゃれ合いが楽しいのか、何度か繰り返しているうちにアビーがドアをノックする音が聞こえた。

「そろそろ準備をお願いします、アドルフ様、ハンナ様。」

アビーは二人が一緒だということを分かっているようで、ドアの外からそう声をかけると、またどこかへ行ってしまった。

「アドルフ!もうそろそろ起きないと!」

リリアーナはアドルフの腕からそっと抜け出すと、やっとの事で起き上がることができた。

アドルフも起き上がると、今度は後ろからリリアーナを抱き締めながら、囁くように言った。

「ハンナ様…しつこいようですが、僕じゃだめでしょうか?僕ならジャック様よりもずっと近くにいられますよ?」

リリアーナはジャックのことを考えた。

未来に戻った時、アドルフはマーカス・ナトリーの息子として城に住んでいるが、ジャックは城で働いているのかすら分からない。

アドルフと違い、未来に戻った時ジャックと一緒にいるところが想像できないのだ。

「…でもわたし…私は諦めたくないの!」


しばらく二人の間には沈黙が続いていたが、アドルフはリリアーナの体に回していた腕をより一層強めた。


「…僕もですよ…」


まさに気持ちが一方通行している二人は、置かれた状況が同じなだけに何も言えなかった。
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