Time Paradox
デリックはジャックをホールの端へと誘導すると、軽くグラスを合わせ、すぐに本題へと移った。


「ジャック、俺の勘だが…あの女は怪しい。」

デリックが声を潜めて言うと、ジャックは首を傾げた。

「…もしかして何か探りを入れてるんじゃないか?質問に答えているジャックを見る目が異様なくらい真剣だった。それにあの女…普通の人ならスルーするような細かい事まで尋ねてくる。大袈裟かも知れないが、スパイの可能性もあるだろう。」

「…嘘だろ?俺、ルクレツィアさんにどこまで話してたっけ?」

ジャックが頭を抱えていると、デリックがさらに質問を加える。

「ちなみにいつ頃知り合ったんだ?」

「そうだなぁ、俺のバイトしてるレストランの常連で…2週間か3週間前くらいだな、いきなり誘われたんだよ。食事を終えたルクレツィアさんに。それでその日の夜に飲みに行ったんだ。」

「おいおい、本当に最近の話じゃないか。それに、よく知りもしない女の誘いを承諾する気になれたな…」

デリックは呆れた様子でそう言うと、ジャックも困ったように肩をすくめた。

「それで今、あの女とはどんな関係なんだ?」

「いや、付き合ってはない。ただ、曖昧な関係に…」

ジャックは言いにくそうにしていたが、どうやらデリックは察したようだ。

「どっちからだ?」

「違う、俺からじゃない!ただ、ルクレツィアさんが泣きそうな顔でどうしてもって言うから、つい…。」

「…そうか。それは、まぁ…男の性だな。」

デリックは慰めるようにジャックの肩に手を置くと、また話を戻した。

「それで、お前はどうしたいんだ?…あの女に対して気持ちがあるのか、はたまた本気ではないのか。」

「…俺は、まだ…」

「…リリアーナ様か。それじゃあ気の毒だが…あの女とは早いうちに縁を切った方が良さそうだな。」

「そうだな、様子を見つつ…そうすることにするよ。」
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