Time Paradox

崩壊

次の日の朝、リリアーナはいつも通り起床したが、何となく城の中の空気がいつもと違うように感じられた。

着替えを手伝ってくれるアビーは何も話さず、朝食に向かう途中もすれ違う人達が何か噂をしながらこちらの様子を伺うのだ。

嫌な予感がした。

食堂の大きな扉が、今日は何十キロとあるように感じる。


扉を開けると、もう既に自分以外は揃っていて、一斉にリリアーナの方を見ては黙って目を逸らした。

「…おはようございます。」

リリアーナが静かに座ると、マーカスの指揮で手を合わせ、黙々と食べ進める。

リリアーナはなぜ自分だけが気まずい対応を受けるのかと考えていたが、アドルフが重い口を開いた。

「…ハンナ様、今朝の朝刊は読みましたか？」

「…朝刊？今朝に限らず毎朝読んでいないから、きっと部屋のポストに溜まりっぱなし…だけど…ごめんなさい…。」

リリアーナは場を和ませるつもりで後の方を冗談めかしたが、突き刺さるような視線と空気に思わず尻すぼみになってしまった。

冗談など言っていられるような空気ではなさそうだと思った時、マーカスは唸るように低い声を出した。

「…やはり、お前は自分とその男を助けるためだけにアドルフとの婚約を利用したんだな？お前など一思いに殺してしまえば…」

「あなた！やめて！！処刑を迫られたら誰だってそういう選択はするわ！それにハンナだって悩んでいたはずよ！」

クラリスは被せるように大きな声で言うと、さらにマーカスの怒号が鳴り響く。

「だったら何だ！お前はアドルフの気持ちを考えた事があるのか⁈」

「もうやめて！」

アドルフのけん制に、一斉に視線が集まった。

「僕の事はもういいんだ。そういうのはもう疲れるから、言い争わないでくれよ…」

アドルフは力無くそう言い、手を合わせると食堂を出て行った。


それからは誰も何も言わず、また無言で食べ続けた。
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