Time Paradox
アーノルド家の屋敷には張り詰めた空気が漂っていたが、その沈黙を破るように突然ルーカスが書斎の方から飛び出してきた。

「兄さん、イザベラ！聞いたか？」

「あぁ。」

「やっぱりおかしいわ。昨日のあの様子からいきなり結婚だなんて…」

3人は足を止める事なく、そのままモーリスのいる書斎のドアノブを回した。

中に入ると、卓上に散らばる書類と、それに手がつかない様子のモーリスが座っていた。

「ねぇ、お父様もおかしいと思わない？私まだ納得いかなくってよ！」

「落ち着け、イザベラ。何か理由があるはずだ。」

デリックがそう言って一瞥すると、モーリスが静かに口を開いた。

「…あくまで噂だが。この街には昔から、一つの家に縛られて転生を繰り返している者がいるそうだ…」

「…それは都市伝説よね？でもなんで今そんな話…」

「昨日のリリアーナ様とアドルフ様の様子を見ただろう？多重人格と呼ばれる症状と酷似していたが、あの二人には激しく共鳴する何かが見えた。
転生を繰り返した者にその記憶を思い出させるのは残酷な事だ。だがその呪いのようなものを断ち切るには思い出す必要があると私は思う。」

「…まさか、アドルフ王子とリリアーナには何世代も前からの因縁があるという事か…」

デリックがモーリスの癖さながら、髭の薄い顎を摩って言った。

「あぁ。そして、あくまでこれは私の憶測だが…アドルフ様が何らかの目的を達成する為にリリアーナ様を操っている可能性が高い。
その支配を解くためにもリリアーナ様には記憶を取り戻してもらわなければ。」

モーリスの言葉にその場にいた全員が頭を抱えた。
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