Time Paradox

新たな試練

別れ

このアーノルド家に誘拐されてから３日目の朝、リリアーナはデイジーによって起こされた。


「おはようございます、リリアーナ様。」

デイジーは朝食も運んできてくれていたようだ。
パンの焼ける香ばしい香りと、コンソメスープの匂いがしたのだ。

「…おはよう、デイジー。朝食ありがとう。」

リリアーナがそう言って微笑みかけると、デイジーは少し寂しそうな顔をした。

「…リリアーナ様とも今日でお別れなのですね。」

「…えぇ。でも今日で死ぬわけじゃないから、またいつでも遊びに来れるわ。」

そのリリアーナの言葉にデイジーは嬉しそうに頷き、リリアーナの着替えと髪のセットを手伝った。


だがなぜか、リリアーナはくるぶし丈で白地に水色の花柄のワンピースに身を包んでいた。

「この服、私のじゃないけど…」

「リリアーナ様が引っ越して来られたばかりなので、モーリス様がお礼も兼ねてプレゼントをしたいとの事で。」

「そうだったの？嬉しいわ！ちょうど今服が足りなかったところなの！帰る前にお礼言わなくちゃ！」

リリアーナの声は弾んでいたが、急に真面目な顔になり、デイジーの方へ向き直った。

「デイジー、今までありがとう。この屋敷も、きっと前よりは過ごしやすくなってくれたと思うけど…もし逃げ出したくなる事があったら私の所においで。私が生きてたら、の話だけど。」

そう言ってリリアーナはいたずらっぽく笑うと、ドアをノックする音が聞こえた。

デイジーがいそいそと開けてくれると、そこにはデリックがいつも通りに立っていた。
いや、ノックをして入って来たのはいつも通りではなかったが。

「おはよう、デリック。ドアをノックするなんて…」

リリアーナはそこまで言いかけて止まった。
なぜなら、デリックの後ろにはジャックがいたからだ。

「お前の相棒だよ。快適な牢獄からこっちまで連れてきてやったんだよ。」

「リリアーナ、久しぶり。」

ジャックはどう接すればいいのか分からないようで、デリックの後ろに隠れている。

「…ごめんね、ジャック。助けに来てくれてたのに。ありがとう。」

リリアーナが言うと、ジャックも申し訳なさそうな顔をして部屋に入って来た。

「俺、あの後父さんに言って説得したんだ。父さん、家賃払う金も無くてあんな事しようとしてたんだ。…許してくれ。」

そう言ってジャックは頭を下げた。

「ジャック！いいのよ、頭を上げて！それに、事情があったのなら仕方がないわよ。家賃は私の分も払おうとしてくれたから厳しくなったんでしょ？」

リリアーナが言うと、ジャックは顔を上げた。

「家賃は私が自分で払うわ！それに私、ベディおばさんも認める働き者なんだから！」

リリアーナはそう言って胸を張る。