Time Paradox
皆はきっと見送りに外へ出ているのだろう。屋敷の中には静寂が訪れた。

マーカスの息子であるアドルフには、もう二度と会えないのかもしれない、もうこれが最後なのかもしれないと思うと、胸が詰まるような思いだった。

気がつくと、リリアーナの頬には涙が流れていた。


「…リリアーナ、王子にはまた会えるって。さっき約束してただろ?」

ジャックが静かにそう言ったが、リリアーナは首を横に振った。

「…もういいの。アドルフにも初恋にもさよならしたから。」

そう言ってリリアーナは笑って見せた。

「この屋敷に王子が来る時はお前に連絡してやるよ。」

「…そうね、ありがとう。」

リリアーナは涙を拭くと、ドアノブに手を掛けて言った。

「私達もそろそろ行かなくちゃ。」

「そうだな、早く帰んないと父さんも心配するし、この家の人に迷惑かけるわけにもいかないな。」

「デリック、あなたには本当に感謝してるわ。みんなと仲良くね。」

「あぁ。けど、この家が元どおりになったのもお前のお陰で俺は何もしてないけどな。」

デリックはそう言って、高いところからリリアーナの頭を撫でた。

ジャックはむっとした顔をしたが、それに気付いたデリックはジャックの肩を寄せ、小声で吹き込んだ。

「相棒、お前は意外と分かりやすいやつだな。いい報告を期待してるぞ。」

ジャックは顔を赤くしたが、そっけなく「ありがと」とだけ言った。

「何話してたの?」

リリアーナが聞くと、デリックはにやにやとしている。

「リリアーナ、帰るぞ。」

ジャックはリリアーナの手を引っ張った。
< 62 / 229 >

この作品をシェア

pagetop