Time Paradox
「よし、ここに決まりだな!」

「私もここがいいわ!こんなおしゃれなレストランで働けるなんて素敵じゃない!」

やる気満々な2人を見たセドリックは、立ち上がって何か書類を取り出して来た。


「それって私の…」

「えぇ。リリアーナさんをモンフォワーシュに連れてくる時に預かっていた履歴書ですよ。」

「うわぁ、そう言えばこんなの私書いたなぁ…懐かしい。ベディおばさんのサインだ!」

リリアーナはそれを受け取ると、ベディおばさんのサインの所を大事そうに撫でた。

孤児院では、保護者の代わりに施設の人がサインをしてくれるのだ。

「これでリリアーナがハンナだと言うことはバレないってわけだな。」

「私の苗字、ベディおばさんと同じって事になってるのね。リリアーナ・キュリー、ベディ・キュリー。本当の親子みたい。」

リリアーナはどこか寂しそうにも見える笑顔を浮かべた。

「この履歴書のお陰で、リリアーナ・キュリーだと言い通すことができる。経営者側が疑っても、客が疑っても、これが証拠だ。」

セドリックがそう言う。

「私がハンナ・ケインズだという事は、私の血を採取しなきゃ証明できないもの。でも、もし誰かが疑って私の血を取っていったらどうしよう?」

リリアーナが不安げに言うと、ジャックは普通の顔をして言った。

「だったら疑われないようにすればいい話だろ。たとえば…元王妃譲りのその金髪はこの街では浮いてしまう。」

「たしかに、私のような髪の人は見なかったわ…」

「だが、リリアーナさんの顔も亡き王妃様によく似ている…」

「この淡いブルーの目もお母様譲りだわ…ジャックみたいなグリーンの瞳だったら良かったのに。」

リリアーナはジャックの透き通った瞳を見ながら言った。

「姿を変えられる魔法なんてないのか?」

「うーん、この街では規制がかかっていて使う事が出来ないようだ。」

「どうしよう…」

「けど父さん、魔法使わなくても髪の色と目の色だけなら変えられるよ。」

「あぁ、そういえばつい最近、人間界から入ってきたな。」

「何でも、規制かかった途端にメイクやヘアカラーが流行り始めたんだよ。カラーコンタクトなんてのもよく売ってるらしいし。」

「へぇえ!そう言えばベディおばさんもブロンドの髪に憧れて染めてたなぁ。カラーコンタクトの噂も聞いた事があるわ!」

「それだけすれば十分だろう。ジャック、それらがどこで手に入るのかは知っているのか?」

「あぁ。俺には入る勇気もないが、化粧品の店で売ってるだろ。」

「よし、じゃあ二人でこれから買いに行ったらどうだ?」

「行こうと思うけど、このままじゃリリアーナが浮くんじゃないか?」

「髪なら帽子で隠せるわ。早く出かけましょうよ!」

リリアーナは嬉しそうに立ち上がった。
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