Time Paradox
なるだけ遠くまで走った2人は、路地の裏に身を潜めた。

追手が少し出遅れたこともあり、2人の隠れている路地裏までは追いかけて来なかったようだ。


2人は誰もいないのを確認してから、急いで横断歩道を渡り、リリアーナの部屋へと戻った。


「何やってんだよ!あと少しで捕まる所だったんだぞ⁉︎」

ジャックは息を切らしながら責め立てると、リリアーナはバツが悪そうに視線をそらした。

「…ジャックには悪いと思ってるわ…でも許せなかったの。何も知らないくせにあんなこと…!」

リリアーナは悔しそうに歯を食いしばり、下を向いていた。

部屋は、街灯や周りの店の灯りが少し入ってくる程度の暗さだったが、それでもジャックには、リリアーナが涙を堪えているのが分かった。


ジャックがそっと抱きしめて背中をさすると、リリアーナは栓が抜けたように泣き出した。


「…私だって…好きで人間界に行ったわけじゃないのに…逃げたわけでもなかったのに…!」

嗚咽交じりに吐き出される言葉は、リリアーナの心の奥底から湧き上がってくる怒りと悔しさそのものだった。

「…きっとみんなが私のこと…あんな風に思ってるんだわ…役立たずのハンナ様ってね!やっぱり…私に出来ることなんて何もないのよ!」

そう喚いたリリアーナに、ジャックはさすりながら言った。

「大丈夫だ、必ず俺らの味方はいる。アーノルド家の人達に、アドルフ王子だって味方だろ?それにこの街を助け出すんじゃなかったのか?」

リリアーナは無言で頷いた。

「だったら頑張るしかない。」

リリアーナは涙を拭くと、ジャックの腕の中から抜け出し、部屋の電気を付けた。
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