Time Paradox
だが突然、膝を立てて座っているリリアーナの所へ小さなものがちょろちょろと近づいてくる気配がした。

古い建物の中を好むグレーの小動物。


「ひぃいっ!やだ、あっち行って!隣の部屋に行けるでしょっ!ちょっとジャック、何とかして!」

「お、おい!何で俺に言うんだよ!だめだ、来るな!」

リリアーナもジャックも慌ててネズミから遠ざかるが、ネズミはそこから動かなかった。

そして信じられない事に、ネズミは後ろ足で器用に立って何かを話し始めたのである。


「…ハンナ様、ジャック様。さすがにこの格好ではお気付きになりませんね?僕ですよ。」

「その声は…アドルフ?」

リリアーナが小さな声で言うと、ネズミは大げさに頷いた。

「ほ、本当に王子なんですか?」

「えぇ。この牢獄の中ではどんな魔法も使う事はできませんが、魔法を使って入り込む事は可能なのです。」

ネズミにしか見えないほど上手く姿を変えたアドルフは、誇らしげに胸を張った。


「…でも姿を変える魔法って、この国では規制がかかってるんじゃ…?」

ジャックが不思議そうに尋ねる。

「そうなんです。でも私達王家の人間にはそれが適応されないようになっているんですよ。そもそもこの国の魔法に関する規制は、ハンナ様を探しやすくするために父上が制定したものなのです。」

「…たしかに昔はそんな規制なかったような気もするな…」

「それで時間を操る魔法も使えないってわけね?」

「えぇ。過去や未来に逃げ込む事のないようにしたのでしょうね。」

アドルフの言葉にリリアーナは不服そうな顔をした。

「…ハンナ様、私にそんな顔をされても困りますよ。それから今は解決策をお伝えしに来たのです。」

「「えっ?」」

その言葉に2人は勢いよくネズミになったアドルフを見る。

アドルフは勿体振るように咳払いをしてから話し始めた。


「父上は僕の事を本当に大事に思っています。僕が頑張ってお願いをすれば、どんな事でも聞き入れてくれました。」

「それじゃあ、私を殺さないでくれって頼み込んだら…」

「いいえ、先ほどから何度もお願いしたのですがそれは駄目でした。しかし、何とかハンナ様の命をお助けし、ジャック様を釈放できるようなプランが完成したのです!」
< 84 / 229 >

この作品をシェア

pagetop