とっくに恋だった―壁越しの片想い―
ランチョンマットの素材は綿で、黒にグレイのストライプが細く入っているものでシンプルだ。
食卓代わりのローテーブルが白だから、合うだろうと思って購入したものだった。
マットの上に、平沢さんが肉じゃがやサラダ、そして箸を並べる。
それから、お茶碗をふたつ持ってきて、私の右斜めに座ってから横に置いてある炊飯器をパカンと開けた。
この部屋にきたとき、平沢さんはいつもそこに座る。
だから、この位置関係に慣れてしまったのか。平沢さんの部屋に行ったときには、なんとなく平沢さんの左斜めに座るようになっていて、いつしかそれが定位置になっていた。
平沢さんの部屋には、私用のクッションまである始末だ。
「ん。おかわりあるからなー」
キノコご飯のよそられたお茶碗を受け取りながら「そんなに食べられません」と言うと、「華乃ちゃんは小食だからなー」と困ったように笑われる。
こうして平沢さんが言うのにはわけがある。
それはここに住み始めたころ、ろくな食事をしなかったせいで栄養失調からくる貧血を、こともあろうに世話を焼くのが趣味みたいなこの人の前で起こしてしまったからなんだけど。
多分、そのあたりからだ。部屋のドアに夕飯の書かれたメモが貼られるようになったのは。
それ以来、食に対して関心の薄い私に、週になんどかご飯を押し付けてくるように……もとい、用意してくれるようになった。
平沢さんが自分のぶんもよそり、ふたりそろって「いただきます」と手を合わせて少し食べたあと、「そういえば」と平沢さんが言った。