とっくに恋だった―壁越しの片想い―


「華乃ちゃん、本当ごめん」
「正直、なんであのとき土田さんを殴ってでも部屋に戻らなかったのかを、今すごく後悔しています」

平沢さんの部屋に戻ってすぐに強引に自己紹介をされた。

集まっているのは大学の頃の友達で、名前は土田さん、小川さん、山岡さん。

最初に話した土田さんはいいとして、小川さんと山岡さんは、どっちがどっちだったかもう微妙だ。
名前と顔を覚えるのは苦手だから。

でもそれも、こちらから話しかけなければいいだけだし、問題はない。

三人の名前や、仕事の内容を聞かされたあと、はじまったのは、なぜか持ち歌をアカペラで歌うという催しで、今は三人目の土田さんが歌っているところだった。

〝誰が華乃ちゃんに一番アピールできるか勝負ー〟みたいな感じのノリで始まったアカペラ勝負。

なんでこうなったかは定かではないけれど、酔っ払いのすることなんてこんなものだろうと思い、お皿の上のパスタをフォークに巻きつけた。

ピザやらなにやらがどっさり余っているって話だったから、脂っこそうだし嫌だなーと思いながら座ると、平沢さんは私の前にあったピザやらお惣菜をすぐにどけた。

そして『華乃ちゃんはこういう出来あいのもんはダメ。今なんかつくるから待ってて』と、ささっと作ってくれたのが、このパスタだ。

ツナとトマト、そして玉ねぎの入った塩ベースの味をしたパスタ。
正直、おいしい。

スーパーでよく買う冷凍ドリアもおいしいけど……平沢さんの料理を食べちゃうと、やっぱり少し違うなとしみじみ思い知らされた。

こもっている温かさが違う、なんて、私の気持ち次第なんだろうけれど。




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