とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「デザートもいっぱいあるよー。なんか酔っぱらってからピザ頼んだからさ、ついでにっていっぱい頼んじゃって溢れ返ってんの」
「聞いてませんしっ」
踏ん張っているのにズリズリと引きずられてしまうのは、男女の力の違いっていうよりも、最近の体調不良やら不眠のせいかもしれない。
身体に力が入らない。
そうこうしているうちに、平沢さんの部屋の前まできて、中にいたふたりの男の人まで出てきてしまい……。
いいじゃん、一緒に食べようよ、食べたら帰ればいいでしょ? 隣なんだからさ、いつでも帰ろうとすれば帰れるんだし。
途切れない誘いに、もうこれは抵抗したところで疲れるだけだと判断し、諦めて頷く。
「……本当に、少しだけなら」
「まじで? やった!」と喜ぶ土田さんの頭を、うしろから平沢さんがバシッと叩く。
突然の攻撃に「なんだよ、いてーな、平沢」と頭をさすりながら振り向いた土田さんに、平沢さんは眉を寄せた。
そして、私の肩を掴んで、ぐいっと土田さんから離れさせながら「これ、いい加減離せ」と言う。
「え? ああ、手ね。ごめんごめんー、つい」
「ついじゃねーよ。華乃ちゃん、触られんのとか苦手だから気をつけてやって」
「うわー、この先輩ちょー過保護なんですけどー」
ケタケタと笑いながら部屋にあがる土田さんにため息をついた平沢さんが、私に視線を移す。
ぶつかった視線に、静かに胸が跳ねた。
「ごめん、華乃ちゃん。嫌だったらすぐ帰っていいから」
胸の鼓動を悟られないように、「言われなくてもすぐ帰ります」と告げ、目を逸らす。
「鍵だけ、かけてきます」
そう告げると、「ん。待ってる」と優しい声で言われて……見ていないのに柔らかく微笑む平沢さんの顔が浮かぶ。
二ヶ月前まで当たり前のように交わされていた会話を思い出す。
『荷物置いて着替えたらすぐ行きます』
『ん、待ってる』
優しい声も、柔らかい雰囲気もなにもかも変わらないのに、もうそこには戻れない。
それを急激に痛感し、歪んだ顔を見られないように俯いて部屋を出た。