どこにも行かないで、なんて言えないけれど
下校時刻は案外鉢合わせしたものだった。


ランドセルを背負うわたしと、部活のジャージを着た碓氷お兄ちゃん。


制服を着て髪を二つに結ぶわたしと、私服の碓氷さん。


「妹みたいなものだよ」


彼女さんと手を繋いで、笑う碓氷お兄ちゃん。


「そうなんだ。可愛いね、お名前は?」


お兄ちゃんと手を繋いで微笑む、大人っぽい人。


「はじめまして、風花っていいます」


……飛びつこうとした両手を握りしめる、みじめなわたし。


なんで、どうして!? 碓氷お兄ちゃんのばか!


そう、駄々をこねるのは簡単だ。


子どもらしい苛立ちが浮かぶ度に、必死に大人ぶって黙った。


本心を知られたら、碓氷お兄ちゃんに嫌われるんじゃないかと思って。


何を一丁前に計算していたんだろう。


身長差がありすぎて、手を繋ぐというより、腕にぶら下がるのが精々だったくせに。
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