どこにも行かないで、なんて言えないけれど
「風花、ご飯よー」


お母さんが呼んでいる。


「今行くー!」


大きく返事して、リビングに早足で向かう。


廊下は外の寒さを示すように足元が冷たくて、家の中の暖かさを表すようにいい匂いに満ちている。


鳥の香ばしさと、コーンスープのほのかな甘み。


メニューは例年通りらしい。


外では雪が降っている。


しんしんとつもり始めの音がする。


「降っちゃったか……」


碓氷さんはまだ来ない。


今から行きます、という、おなじみの連絡が入っていない。


来てくれるころには、どれくらいつもっているだろうか。


降りすぎて危ないから行けなくなった、なんて連絡来たらどうしよう。


……今年も来てくれれば、嬉しいけど。


ちらりと玄関に目を向けてから、扉を開けた。
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