バナナの実 【近未来 ハード SF】

それらは、映画のストーリーやキャスティング、映画制作・配給・興行会社との契約内容や進行方針など多岐に渡っていた。


その様子は一見すると、大企業の店長会議か役員会議のやり取りを、ネット中継で観戦しているかのようだ。


違いといえば、各々(おのおの)、現実の世界では違った職業・社会的地位・年齢に属しているということ。


中・高校生や大学生、フリーターやニート、団塊の世代やリタイヤ世代。


いずれの方々も辻の目標に賛否があるものの、小説に対しての楽しさ・興味・面白さを共有するという面では共通しているように見えた。


また、多くの人が“自(みずか)らこの映画制作に携わっている”という実感を持つようになっていった。




次に辻は、映画制作のため、プロデューサーとなってくれる人を探さなくてはならなかった。


もし、彼ひとりで調べて探そうと思ったら、おそらく頓挫(とんざ)していたに違いない。


百歩譲っても、辻は、そのような能力を備えていなかった。


しかし、現代のインターネット網は、粘土の人形のように後から自由に能力を貼り付けることを可能にするごとく、小説読者の書き込みや助言が辻を助けたのだ。


そこには、何事においても素人である彼が、到底知りえないような情報がウェブ上に溢(あふ)れかえっていた。


この時の辻は、これこそが叡智(えいち)の結晶であり、Web2.0であり、IT革命と言われたゆえんなのだと実感する。


情報があってもインターネット環境が貧弱だった二十年前にはできなかったことが、今だから可能になったのだと・・・。


情報と情報が、人と人が、面白さや関心という磁力で引き合う環境。


時間や所在地を越え、不特定多数の人々がほぼゼロに近いコストで、自由に交流できる場が・・・。
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