バナナの実 【近未来 ハード SF】

ほどなくして、読者たちの助言の甲斐(かい)あり、企画立案から興行に至る全工程を管理するプロデューサーが決定した。


そして、順に監督と脚本家が決まり、読者と脚本家の架け橋役を担うため、辻もサブプロデューサーとして名を連ねた。


この頃になると辻は、映画化プロジェクト自体が次第に自分の手から離れ、ウェブに参加している読者によって進められているように感じ、また、それを嬉しくも思った。


次第に彼は、ウェブ上の民意をまとめる存在へと変わっていく。


読者の楽しさ・興味・面白さといった、ファンの最大の利益を考えた結果が今までの行動であったに過ぎず、彼にとっては、ごく自然な振る舞いであった。



小説シナリオに描かれた映画の脚本には、バナナの実が成るテーマを柱とした高い自由度と無限のシナリオ設定が、あらかじめ与えられていた。


ゆえに、オリジナルにはないアクション挿入も、舞台が日本の歌舞伎町であっても構わない。


出版されてから映画化されるまでの期間、ウェブ上で議論された読者の意見や言葉を取り入れ、映画の脚本に反映させることが重要であるとされていたからだ。





辻は、これまでブログで議論された映画脚本に関わる種を資料として用意。


そして、監督やプロデューサーらと会議を重ね、読者や辻自身の構想を何度も説明する時間を持った。


そうすることで、制作側に共通の方向性を持たす狙いがあった。


その上で、映画の脚本を脚本家に一任することにしたのだった。
< 193 / 239 >

この作品をシェア

pagetop