思いがけずロマンチック

千夏さんは私より四歳上の二十九歳。学生の頃に市内の美容院が主催するファッションショーの着物モデルを務めたことがあるという綺麗なお姉さん。

このビル内の他の会社で勤務する男性から声をかけられることもあるけれど、もちろんみんな撃沈。かわいそうに、彼らは叶わぬ恋だと知らないのだろう。


だけど可哀想なのは彼らだけではない。
半年ほど前、同じビル内の会社に勤めている男前さんに声をかけられたのは私。勝手な妄想を膨らませていたら、男前さんの目当ては千夏さんだったという苦い思い出もある。


「今朝階段で足を滑らせてコーヒーをぶちまけて……」


すべてを話してしまうのはさすがにためらわれたから、掻い摘んで説明した。王子様らしき人にお姫様抱っこされて云々というのは割愛。いい歳をして夢見がちだと言われるに決まってる。


「莉子ちゃん相変わらずだね……、怪我しなかった?」


千夏さんがくすっと笑う。
呆れた口調だけど優しい顔をして。本当は『相変わらずドジだね』と言おうとしたに違いない。



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