思いがけずロマンチック

「ありがとうございます、ちょっと踏み外しただけなので平気です」

「それならよかった、あまりこすり過ぎない方がいいよ、生地が傷むから……すぐにクリーニング屋さん行っておいで、今なら夕方には出来上がるかも」

「ああ、あそこですね」


確か会社の近所に『朝出して夕方OK』と看板に大きく書かれているのを見たことがある。10時を過ぎているけれど、とりあえず行ってみよう。


「うん、早く行っておいでよ」


と言いながら千夏さんが振り向いた。

ちょうど社内を偵察してきた織部さんが戻ってきたところ。不満そうに口を尖らせて肩を落とした織部さんの顔から、状況が思わしくないことはすぐにわかった。


「部長クラスは全員出社してないらしい、電話しても繋がらない、どうやら事前に知ってたんだな」


明らかに怒りの込められた織部さんの声に、周りの人たちまで振り返る。
一部の取締役は倒産を事前に知っていて逃げ出したらしい。私たち社員は完全に見捨てられたのだ。

< 12 / 228 >

この作品をシェア

pagetop