思いがけずロマンチック

有田さんの携帯電話に掛けてみた。呼び出し音に耳を傾けると間もなく振動が響いてくる。私のすぐ近くで震えているような感覚に疑問を覚えずにはいられない。


かけ間違えてしまったのかも……と思いつつ確認した。電話のモニターに表示された番号は私の電話番号ではないし、机の上に置いてある私の携帯電話はぴくりとも動かない。


だけど呼び出し音と連動して、いつまでも振動は鳴り続けている。気味が悪くなって受話器を置くと、振動はぴたりと止んだ。


すぐに役員室を覗きに行ったけれど有田さんの姿はない。

もう一度、電話番号を確認して掛けてみる。
受話器からの呼び出し音と響いてくる振動は、やはり近くから感じられた。耳を澄ませて机の上を見渡したら、書類の束が小刻みに震えている。


まさかと書類にかけた手から伝わる振動が、全身を硬直させていく。


書類をめくってみると、見覚えのあるスマホが震えている。やっと見つけてくれたと言いたげに、さらに振動を加速させて。


ようやく思い出した。
有田さんのジャケットを預かった時に、ポケットに入っていたスマホを机の上に置いたことを。あとでポケットに戻しておこうと思っていたのに、すっかり忘れていたんだ。


どうしようもない後悔が背中からのしかかってくる。なんとかして有田さんに連絡しなければいけないのに、連絡の取りようがない。
もう頭の中が完全に混乱してる。

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