思いがけずロマンチック

何をどうやって事務所に戻ってきたのかわからない。自席に着いた私の頭の中には泡のような空白がいくつも浮かんでいて、次々と思考をかき消していく。


私は何をしたかったんだろう、どうしてこんなに不安なんだろう。今何をして何を考えるべきなのか、自分の迷っている理由さえわからなくなって。

くしゃりと頭を抱えて項垂れた。


机の上に広げた書類の文字が滲んでくる。今にも目を閉じてしまいそうになった時、紙の擦れる音がすぐそばで聴こえた。


驚いて顔を上げたら、有田さんが真横に立ってる。お弁当を入れた紙袋を提げて。


「ありがとう、美味しかったよ」


抑揚のない声とともに差し出された紙袋。語尾が僅かに上がったように聴こえたけれど、私は黙って頭を下げながら紙袋を受け取った。

『明日も食べてくれますか?』

喉元まで出てきた言葉を声に出すことなんてできない。


「どうかしたのか? 顔色が悪いようだ」


有田さんが顔を覗き込んでくる。


何でもいいから、ひと言でいいから何か答えなくちゃ……、頭の中に浮かんだ空白を縫いながら言葉を拾い集めていく。


「なんでもないです」


ようやく声に出せた言葉は呆れるほど大したことなくて恥ずかしくなるほど。ますます顔を上げづらくなってしまう。

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