思いがけずロマンチック
次から次へとテンポ良くファイルのとじ具を引きはがしていくうちに、嫌なことも何もかも消えて心が軽くなっていく。やっぱり単純な作業は無心になれるからいい。
調子に乗ってドライバーを突っ込んで力任せにとじ具を引き上げる。するとドライバーが滑って、とじ具の隙間から飛び出した。
「あっ」と声が漏れるのと同時に、ドライバーの先端がファイルの表紙を抑えた左手を勢いよく掠める。
じんと鈍い痛みが走って、親指の付け根辺りから血がにじみ出てきた。太めのマーカーでなぞったような傷は猫のひっかき傷の方がずっとマシと思えるほど。
自分の馬鹿さ加減にうんざりだ。
千夏さんと織部さんのためとはいえ有田さんをゲットして、社内恋愛禁止令を撤廃させようなんて単純であさはかだったんだ。あくまで作戦のはずだったのに、自分の気持ちが少しでも傾きそうになっていたことに気づいたら余計に情けなくなる。
簡単に引き受けるべきじゃなかったのかな……
もっと他に良い方法があったのかもしれない。
キャビネットにもたれて座り込む。
一度手を止めて座ってしまったら、もう立ち上がれるような気力はない。さっきまでテンポ良く一心不乱に作業していたのが嘘みたい。
気持ちの底に押し込んだモノが気が緩んだ隙を狙って浮上してくるのを、ぎゅっと目を閉じて押し戻す。
消えろ、消えてしまえと何度も何度も念じ続けて。