思いがけずロマンチック
朝一番の会議室は無機質な匂いに満ちている。点けたばかりのエアコンから降りてくる風はなんだか埃っぽく感じられて息苦しい。
会議室の空気に馴染めないというのに有田さんは席に着くなり話し始める。
「笠間さんの店がイベント終了後に閉店するらしい」
有田さんの言葉と胸の中で疼いていた黒い影とがぴたりと重なった。
できれば否定してほしかった現実。有田さんの顔から消えることなく滲んでいた焦りの色の正体はこれだったのだ。
「笠間さんの店もですか? 再開発ですよね?」
「知ってたのか、あの周辺で大掛かりな買収が行なわれているらしい、何が目的なのかは聞いていないが急に湧いて出てきた話らしい」
低く吐き出された有田さんの声には落胆までもが隠されているように思えてならない。確かに有田さんの表情は暗く沈んだままだから。いつもの有田さんの凛とした表情とは違うから。
気持ちの中には浮かんでいるけれど、口に出してしまいたくない疑問が頭の中を巡って離れない。
「笠間さんの移転先はまだ決まっていないらしい」
消してしまいたい疑問を口に出したのは有田さん。聞きたくなかった言葉に思わず頭を垂れてしまった。