思いがけずロマンチック
真っ暗な事務所を背負って、私たちを見つめているのは有田さん。もたれかかるようにパーテーションに肘を掛け、とぼけた顔をしている。
今日は定時後に本社で会議があるからと早めに退社したのに、まさか戻ってくるなんて思いもしなかった。きっと直帰するだろうと思い込んでいた。
「遅くまでご苦労様、何かあったのか?」
しれっと尋ねるけれど、今来たばかりのようには見えない。だからと言って、いつから見ていたのか聞いていたのかさえわからない。
どこから説明すべきかと迷っているうちに、益子課長が足早に自席へと戻っていく。
「有田さん、もうすぐ終わります。私も唐津さんも残り一期分なんですよ、明日中には間に合います」
と言いながら、何事もなかったと言いたげな笑顔で。さっきまでの一部始終を既に見られていたかもしれないのに、よくそんなことが言えるものだ。
今ここで、セクハラを訴えてやろうかしら。