思いがけずロマンチック
「唐津、企画書が足りない」
有田さんが声のトーンを落として振り向いた。
あまりにも突然のことだったから有田さんの言っている意味がわからないし、全く頭がついてこない。
「え? 企画書は……そこに……」
「違う、一枚抜けている、そのファイルの中に残ってないか?」
ガツンとひと言吐いた有田さんは、うろたえる私からファイルを取り上げた。ぱらぱらと何度も書類を捲るけれど、肝心な企画書は見当たらないらしい。
「すみません、ちゃんと揃えて……」
「もういい、笠間さん、申し訳ありません、手元に書類がないのですが口頭で説明させて頂きます」
私の言葉を遮って、有田さんが笠間さんに説明を始めた。言い訳など聞くつもりはないと言いたげな鋭い視線を残して。
さっきまで有田さんの熱弁に爽快感さえ感じていた気持ちが、みるみる沈んでいく。重苦しい空気が背後から圧し掛かってきて胸が痛い。
悪いのは有田さんではなく私。大切な書類が抜けていたなんて、あってはならないことだというのに大失態だ。
だけど、失敗は認めなければならないとわかっているけれど納得できない。出かける前に企画書すべてに目を通して、確認した上でファイルに入れた。
ちゃんと確認したのに……
もう、有田さんの説明なんて耳に入ってこなかった。