思いがけずロマンチック
「いいえ、総務課に異動になったので営業としての仕事はこれが最後になるんです」
「そうなんだ、最後の仕事なんだね……寂しくなるなあ」
壁に掛かった時計を見上げて、笠間さんが小さく息を吐いた。
有田さんが出て行ってから、すでに一時間経った。そろそろ戻ってきてもいい頃だ。途中で何かあったのだろうか。
天気予報通り、風が強くなってきたらしい。事務所の窓を打ち付ける雨音が、ずいぶん強くなってきた。
「私も、最後に笠間さんの仕事をさせて頂けて本当に良かったです」
言葉に出したら、じんと胸が熱くなる。
まだ仕事は終わっていないというのに、まるで最後の挨拶に来たみたいだ。
「唐津さん、最後なんて言わないでよ。まだ出店は終わってないんだし、まだ他にも頼みたいことがあるんだから」
「他に? どこかに追加されますか?」
机上に重なった書類の中から、工程の記載されている書類を探す。取ろうとして手から弾け飛んでしまった書類が机上を滑っていく。
とっさに伸ばした手に、笠間さんの手が重なった。
すぐに手を引っ込めようとするのに、笠間さんは手を退けてくれない。退けるどころか逆に強く押さえつけながら、私の手を包み込んでしまう。