思いがけずロマンチック
そっと笠間さんの顔を窺うと、私を見てにこりと微笑んだ。
「この仕事が終わったら……でいいんだ」
「な、何でしょう?」
意図せず声が震えてしまう。
胸がざわざわと騒ぎ始めて、どこを見たらいいのかわからない。
しんと静まり返った事務所に、店のドアチャイムの音が響いてきた。
続いて事務所のドアをノックする音。するりと笠間さんの手が離れるのと同時に、勢いよくドアが開いた。
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
有田さんが息を切らせながら入ってくる。スーツのあちこちが濡れていて、乱れた髪にも雨の雫が光っている。
すぐに笠間さんが席を立ち、タオルを持って駆けつけた。
「こんな雨の中、すみませんでした」
「こちらこそお待たせしてしまいました、こちらが最終版の企画書です、ご確認ください」
受け取ったタオルを使う間もなく、有田さんは企画書を差し出した。笠間さんが受け取るのを確かめて、上がった息を整えながら私の方へと振り返る。
「すみませんでした」
目が合う前に、ぺこりと頭を下げた。
こんなにびしょ濡れになってしまったのは私のせい。さっきの笠間さんのことを思い出すと、顔を上げることができない。
「ちゃんと説明はできたのか?」
「はい、できました」
もう一度頭を下げて即答。笠間さんが企画書を机上に置いて、有田さんへと歩み寄る。
「完璧ですね、すべて唐津さんが説明してくれた通りです、ありがとうございます」
笠間さんは一礼した後、私にも微笑んでくれた。