思いがけずロマンチック

では他に、どんな策がある? 


こんな場所、私には不利だと思う。まず場所に適応することができないから、いつまでも緊張感から解放されずにいる。話すネタさえ浮かばない。


私を見て、有田さんがくすっと笑った。


「今日はお疲れ様、あとは当日を上手く乗り切れば成功だな」


ふいに投げかけられたのは意外な言葉。
いつまでも落ち着かない私がおかしくて笑ったんじゃなかったんだ。
そんなことよりも、企画書を間違えて持って行ってしまったことに対して何にも言わないのか。


「ありがとうございます、いろいろとすみませんでした」

「いろいろあったが、笠間さんに納得してもらえてよかった、ややこしい客はあそこでキレることもある、いい客でよかった」


私も笠間さんはいい人だと思っていた。あんなことがなければ何にも疑うことなかったのに、どうしてあんなことを言ったんだろう。


「本当に、すみませんでした」

「今度から気をつけろ」


有田さんの声には怒りなど感じられない。むしろ穏やかで優しいと思える。仕事とプライベートでは違うのだろうか。
おかけで私を取り巻いていた重苦しい空気が、少しだけ消えたような気がする。

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