ルルー工房の月曜の午後
「自分のプライドと顧客の信用。画家という一商人として優先するべきはどちらか、考えれば明白だ。
だが、工房という組織に長くいればいるほど、工房どうしのいざこざがあったりして、他の工房への敵対心は大きくなる。
そうなると、他の工房に頭を下げようなんて発想はなかなかできなくなるものだ」
偉いぞ、と、ごつごつした手でベルの髪を掻き回して、エドガーが笑みを深くする。
なんだか子供を褒める父親みたいだ、と思うと妙に懐かしくなって、ベルは潤みそうになる目を伏せた。
もうずっと昔、小さい頃によくこうして父に頭を撫でてもらった。
あの頃の父は明るくて、今よりもずっと口数が多くて、よく笑う人だった。
――十年前に、母が亡くなる日までは。
(……お父様は、お元気かしら)
急に決まった縁談に反発して、ほとんど衝動だけで出てきてしまった。
けれど、いつかはきちんと話さなくてはいけないことはわかっていた。