強引なカレの甘い束縛
がくがくと震える足を、「頑張れ、大丈夫」と叱咤しながら動かして、そして陽太とつないだ手に力を込めて、ゆっくりと歩いている。
そのとき、少し離れた通りから、自動車のクラクションの音が聞こえた。
思わず立ち止まりそうになるけど、歩みを止めないよう、ひたすら動かす。
公香が横断歩道の真ん中で立ち尽くしていた姿が頭に浮かんで苦しい。
クラクションが鳴り響き、今にも自動車が走り出してくるんじゃないかと怖かった。
転げるように公香の元へ走り、抱き上げたあとのことは、あまり覚えていない。
ひたすら車道を駆け、安全な場所を目指した。
これからしばらくの間、クラクションの音に反応してしまいそうだ。
公香と姉さんも、そうかもしれないな。
だめだ、だめだ。
かすかに残る恐怖と折り合いをつけなきゃ。
すると、陽太が歩くスピードを落として口を開いた。
「怖かったけど、大丈夫。公香もこれに懲りて、これからは車道に飛び出すことはないだろうし。自動車の運転手の人たちも、七瀬たちが横断歩道を渡り終えるまで、とくにいらだつこともなく待ってたぞ」
私を安心させるような陽太の声を聞いて、がくがくしていた足にほんの少し力が戻った。
「俺も公香が俺に向かって走り出したときは血の気が引いたけどな。子どもが横断歩道の真ん中に立っているのを見たら、車も待ってくれるさ。まあ、たしかにあのクラクションの音には慣れないけどな」
たしかに、子どもが飛び出しているのに、車を走らせるなんてこと、しないだろう。
それに、公香を抱えて走ったのは、ほんの数メートル。
そしてほんの数秒。
公香に駆け寄る私の姿だって運転席から見えていたはずだ。
待っていてくれるのが当然。
だけど、やっぱりあのときは私も姉さんも、公香が車に轢かれてしまうと思った。
大切なものが消えてしまう苦しみに押し潰されそうだった。