強引なカレの甘い束縛



「そう言いながらも、俺も七瀬と公香が横断歩道を渡り終えるまで、心臓が止まりそうなくらい、痛かったな……」

ふうっと息を吐き出して、気持ちを整えている陽太。

私の気持ちを明るくするために口では軽やかな言葉を繰り返しているけれど、私の手を握る強さはかなりのものだ。

陽太もあの数秒の恐怖と闘っているんだろう。

たしかに怖かった。

そして、もう二度とあんな経験はしたくない。

誰かを失うかもしれない苦しみは、いらない。

だけど、その苦しみが姉さんの気持ちに変化をもたらしたのかもしれない。

これまで公香は、姉さんをひとり占めしたいと願い、唯香だけでなく私の世話をもする姉さんの姿に寂しさばかりを募らせていた。

そんな公香の気持ちに気づかない訳がないのに、姉さんは必要以上に私の世話をやいていた。

だけど、車道の真ん中で立ち尽くす公香を助けようと飛び出した私に気づいても、姉さんの口から出たのは公香の名前だけだった。

何度も公香の名前を叫ぶ姉さんの声は、震えて苦しそうだった。

そして、公香を愛する気持ちに溢れていた。

一度として私の名前がその口から出ることがなかったことに、歩道で公香を抱きしめながら気づいていた。

振り向けば、再び動き始めた車の流れの合間から、今すぐ公香を抱きしめたいと願っている姉さんの姿が通りの向こうに見えた。

ただでさえ不自由な足でよろよろと立ち上がり、信号が変わるのを待っていた。

そう、姉さんの目が私に向けられることはなく、ひたすら公香だけを見ていた。

そしてそのとき、私に対する目に見えない姉さんからの拘束が解かれたと、感じた。

私への罪悪感から生まれた執着。

我が子よりも優先する、私への強い愛情からの解放。


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