強引なカレの甘い束縛



「七瀬」

「え?」

考え込んでいる私の顔を覗き込む陽太と目が合った。

「三十分待ちだってさ。まあ、ふたりで並べばあっという間だな」

私たちは長い列の最後尾、高校生らしいカップルの後ろに並んだ。

陽太は繋いでいた私の手を離すと、そのままその手は私の腰を抱き寄せた。

「俺が、七瀬の名前を呼ぶから、大丈夫だ」

私の耳元に、陽太のささやきが落とされた。

たくさんの人が並ぶ列の中、あたりを気にすることもない陽太に、どきりとした。

私は思わず辺りを見回し、陽太の声が聞かれてないことを確認した。

「誰もまわりのことなんて気にしてないだろ。うまいアイスのことで頭はいっぱい」

陽太がくすくす笑い、私の腰の上に置いている手をリズムよく動かす。

まるで私の複雑な気持ちをほぐすように。

「だ、だけど、やっぱり気になるし」

そう言われても、人前で体を寄せあったり甘い言葉を交わすのには慣れていないのだ、恥ずかしいに決まっている。

陽太だって私の戸惑いに気づいているはずなのに。

「お姉さんの愛情は、向けられるべき人に……公香にようやく向けられたってことだろ? だからといって七瀬への愛情が消えたわけじゃないし、それに」

陽太はそこでいったん口を閉じ、さらに強い力で私を抱き寄せた。

「ちょっと、よ、陽太……」

まだ緊張が残っているのかおぼつかない足元がぐらり、揺れた。

「だけどな、油断は禁物。お姉さんの七瀬への愛情がすぐに消えるとは思えない」

「え?……だけど」

忍さんと公香と一緒に帰って行く姉さんは、ちらりとも私を振り返らなかった。

自分の家族への愛情に改めて気づいて、私への不要な愛情を手放したはずだ。



< 359 / 376 >

この作品をシェア

pagetop