強引なカレの甘い束縛
就職した後も変わらずこのマンションに住んでいいと言ってくれる音羽家に申し訳なく思いながらも、環境の変化がなにより苦手な私にとってそれはありがたく、できる限りここで暮らしたいと思っている。
「この十五階からの絶景にも慣れたな。まあ、五年もここに来れば当然だよな」
「え、ああ、そうだよね。私も初めてこの家に来たときはこの高さにびっくりしたけど慣れちゃったもん」
「そろそろあの川沿いの桜も咲き始めるな」
「うん。桜が満開になった頃、去年みたいに散歩しようね」
「もちろん七瀬の手作り弁当持参だろ?」
「了解。お重にアスパラベーコンとだし巻をいっぱい詰めようか……あ、梅おかかのおにぎりも」
ベランダに面している窓から遠くを眺めながら、陽太と笑い合う。
このマンションの近くの川沿いの桜が満開になると、その様は圧巻で、毎年ふたりでお花見がてらお弁当を持って散歩に行く。
毎年の恒例行事となりつつあるそれも、今年で四回を数えた。
そして、あと何回それを楽しむことができるだろう。
私が今の職場から大きな異動をする可能性はゼロに近いけれど、陽太はきっと異動を幾つか繰り返して上の役職に就いていくと思う。
今関わっているプロジェクトが終了すれば、それはすぐだろう。
そうなれば、こうして私の家に来ることもないだろうし、お花見なんてことはできなくなる。