オフィス・ラブ #another code
「どうしたんだよ、イラつきやがって」
「なんでもありません」
少し酔っ払った加倉井がしきりに絡んでくるのを、苦笑しながら受け流す。
酒好きと豪語するわりに、強いわけではないらしい。
けれど酒を楽しめる人というのは、こんなふうに酔っ払える人なのかもしれない、と新庄は思った。
「スカしやがって、男前が」
いかつい手で頭をぐいと押さえつけられ、つくづくこのメンバーでは最年少なのだと実感した。
周りのチームメイトたちも、誰も助けてくれず、確かにちょっとイラついてたなあ、とにやにやして加倉井に加勢するばかりだ。
会社のつきあいで、こんなふうにいじられっぱなしなんて、何年ぶりだろう。
「新庄、携帯鳴ってるぞ」
加倉井の反対隣に座っていた、比較的新庄と年次の近い社員が、畳に置いていた携帯を渡してくれる。
開けば、表示されていたのは、大塚の名前で。
新庄は、ためらいなく即座に閉じ、まだ振動している携帯を鞄に放りこんだ。
今、彼女と話したら、自分が何を言うかわからない自信があったからだ。
ゆとりのある座敷の個室で、めいめいが持ち寄った資料をもとに打ち合わせをしている間も、自分がどこか、苛々とペースを崩しているのに気がついていた。
周りが全員年長だったので、誰も気にせずに、逆に面白がってくれたようだけれど。
これが部下を相手にしている時だったらと思うと、自分の自制心のなさに寒気がする。