落日の楽園(エデン)
「それはいいけど、早く来いよ。お前の担任には、言っておいたから」

「言ったの!?」
 舞は悲壮な声を上げる。

 なんだよ、と春日は眉根を寄せた。

「親戚だって言っただけだよ。別にそこまで隠す必要はないだろう?」

 自分自身の反応に、困ったように舞は唇を噛み締める。

 ほら、といつの間に取ってきてくれていたのか、下に置かれていた舞の鞄を手渡す。

 舞はそっとそれを受け取りながら言った。

「これ、あんたが取りに行ったとき、みんな何か言ってなかった?」

 その言葉に、春日は、ちらと冷たい視線を向ける。

「別に。坂口に頼まれたって言ったら、春日くん、使いっぱしりみたいなことまでするのねって、女子に言われただけだよ」

 そして、鬱陶しげに前髪をかきあげる。

「お前さ、いつからそんな世間体なんか気にするようになったの? ……ああ、昔からか」

 舞は反射的に鞄を振り上げて、春日の顔面にぶつけそうになった。

 慣れているからか、春日はすぐに身を引いたが、舞はその手を途中で止めていた。

 春日は舞の瞳を覗き込み、そっと呼びかける。

「舞……?」
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