落日の楽園(エデン)
昇降口へと駆け下りると、春日は何故か自分のクラスではなく、D組の下駄箱の前にいた。
D組は舞のクラスだ。
「春日!」
舞の声に、春日は振り向く。
「舞! 何処行ってたんだ。捜したんだぞ。もしかして、先に帰ったのかと思って」
その言葉に、舞は唇を噛み締める。
「……そんなはずないじゃない。誰も私に連絡してくれるはずないもの」
馬鹿なことを言うな、と春日は舞の小さな頭を、ぽんぽん、と叩いた。
「帰るぞ。たいしたことはないみたいだけど。
一応、用心のために、入院したらしいから……舞?」
舞は顔に手をやり、小さく震えていた。
「あんた、ひとりで行きなさいよ。……わたし、行けないわ」
「なに言ってるんだ。お前のお袋さんも来るって言ってたぞ」
「ママが?」
舞は眉をひそめた。
「あの人も人の子なのか。世間体を気にしてるのか、……悪い」
いいの、と舞は俯いたまま、呟くように言った。