落日の楽園(エデン)
 いつもの私は、こんなに― 人の勝手にされて許すような女じゃないのに。

 介弥の口づけを受けながら、舞は思っていた。

 私、どうして城誠に行こうと思ったんだろう。

 どうして、誰に言い寄られても、どんな風に口説かれても、その気にならなかったんだろう。

 唇を離した介弥の瞳は、舞の瞳のすぐ側にあった。

 何処か責めるような舞の眼つきに、彼は嗜めるように言った。

「姉弟だってことは、此処にいるときだけ、忘れたら?

 どうせ、俺たちは知らないことになってるんだから」

「でも……それは逃げよ、介弥」

「そうかもしれないけどな」

 そう呟きながら、介弥は俯く舞に、もう一度、口づけた。

 強く介弥に抱き締められる。

 介弥の鼓動が自分の鼓動と区別がつかなくなるくらい、近くに居た。

 いつも優等生で生きてきた。

 誰にも負けたくなかった。

 頭がよくて、なんでも出来て、先生や親にまで一目置かれて―

 だけど。

 誰にどんなに持ち上げられても、こんなに幸せだと思ったことはなかった。
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