今、鐘が鳴る
「先ほど碧生くんが披露宴と言ってましたけど、由未さんの実家のご関係ですか?」
美味しい八寸を楽しみながらそうおうかがいした。

「うん。ほら、僕達の結婚式にも来てくれた、義人くんの親友の……日本舞踊のお家元くん。彼が明日、結婚するんだって。」
「……梅宮彩乃先輩?」
由未さんが、コクコクッと何度もうなずいた。
義人さんから聞いたことがある……そう、ご結婚なさるのね。
「由未もお世話になったから。ね?」
恭匡さんにそう言われて、由未さんは少し赤くなった。

食事の後、恭匡さんがお店の人にお会計をお願いすると
「もういただいてます。」
と、仲居さんがおっしゃった。
カウンターの中の板前さんも
「おおきに。またお越しください。」
と笑顔で送り出そうとする。

恭匡さんと由未さんが顔を見合わせて
「大村さん!……どうしよう?そこまでお世話になっていいんだろうか?」
「暎慶さん、めっちゃ気ぃ利くとは聞いてたけど……さすがやねえ……いいんちゃう?」
と、話し合っていると
「おおむら……えいけい?てるよし?」
碧生くんが怪訝そうにそう聞いた。

「ん?碧生くん、知ってるの?イケメンのお坊さんだったよ。」
「お坊さん?別人かな?」

首をかしげる碧生くんに、由未さんがスマホを見せた。
「この人。次の貫主やって~。かっこいいよね。」
由未さんの言葉に、恭匡さんが不機嫌な顔になったのが気になったけれど、それよりも碧生くん!

「てる……」
と、つぶやいた碧生くんは、今までに見たことがないような顔色と表情だった。


恭匡さんと由未さんと別れてから、碧生くんに聞いてみた。
「知り合いだったの?お坊さん。」

碧生くんは、動揺して目を泳がせた。
けれども、また「内緒」と誤魔化すと私が怒ると思ったのか、しばらくして重い口を開いた。

「髪がないからイメージ違うんだけど、名前も一緒だし、間違いないと思う。2年間、家庭教師として俺に日本語や日本文化を教えてくれた先生。でも僧侶って知らなかったよ。普通の留学生だと思ってた。」
そこまで言ってから、碧生くんは首を振った。
「いや、違うんだ。そうじゃなくて……。ごめん、俺、ちょっと今、無理。」

明らかに様子がおかしい碧生くんに、私はピンときてしまった。
「……ゲイ?」
私の問いに、碧生くんは真っ赤になって口をぱくぱくと開いたり閉じたりしていた。
……どうやら正解らしい。

「……そうですか。それは、確かに……」
何て言ってあげたらいいかわからなくて、私も言葉に詰まってしまった。
「……あの、これ以上無理にお聞きしませんので……。」

私がそう言うと、碧生くんは苦笑した。
「また敬語になってるよ。」
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