今、鐘が鳴る
帰宅すると、母が外商さんを呼んでのお買い物中だった。
「ちょうどいいところに帰ってらしたわ。主人の夏のスーツを作りますから、碧生くんの分もご一緒に仕立てていただきましょう。採寸におつきあいくださる?」
碧生くんは一度は遠慮したものの、母に何度も勧められ、結局採寸に応じた。
「これで、勝手にどんどん色んな服や着物を作られちゃうわよ。」
私がそう脅すと、
「まさか、そんな……」
と、絶句していた。
母は、典型的な着道楽。
着物も洋服もおびただしい数を毎年新調し続けている。
もちろん私の服もお着物も、全て母と外商さんが勝手に作ったものばかりだ。
「百合子は、自分で服を選ばないの?興味ない?」
お茶を飲みながら碧生くんにそう尋ねられて、私は少し苦い気持ちになった。
……今まで誰にも言ったことのない……あの時あの場所に居合わせた人しか知らない、私の悔恨。
「昔は、母と同じように、おしゃれが大好きだったけど、今は……執着しないようにしてるかな。」
「なんで?」
思わず「内緒!」と言いたくなったけれど、それではフェアじゃないだろう。
あきらめて、話し始めた。
「はじめて由未さんとお会いした日、私のとっておきのワンピースを恭匡さんが由未さんにお貸してらしたのを見て……私、逆上して由未さんに酷いことしてしまったんです。」
あの日、全ての歯車が狂ってしまった。
私が最初から由未さんに優しく接していれば、仲良くしていれば……。
碧生くんは首をかしげた。
「そりゃ、やすまっさんが悪いよ。どうせ由未にいいかっこしたかったんだろうけど、女の子にとってドレスがどんなに大切か、まったくわかってないんだよ。」
きょとんとした。
私の言い方が悪かった?
自分を正当化するように事実を歪曲して伝えてしまったかしら?
「いえ、あの、悪いのは私なんです。」
慌ててそう言うと、碧生くんはそっと私の頭を撫でた。
「……かわいそうに、それでずっと自分を責めてきたんだね。まったく。子供なんだから、少しぐらい、手を出そうが言い過ぎようが、しょうがないじゃん。もう、自分を許してあげなよ。」
驚いた。
そんな風に、誰も言ってくれなかった……まあ、当事者以外に言ったこともないけれど。
泣きたいような、笑いたいような……。
「ありが……うござ……す。」
うまく言葉にならない。
碧生くんは、ふわりと私を抱きよせて
「さっきからずっと敬語だよ。萎縮しないでいいから。」
と言ったあと、もう一度頭を撫でてくれた。
くすぐったくて、少し気恥ずかしいけど、うれしかった。
「ちょうどいいところに帰ってらしたわ。主人の夏のスーツを作りますから、碧生くんの分もご一緒に仕立てていただきましょう。採寸におつきあいくださる?」
碧生くんは一度は遠慮したものの、母に何度も勧められ、結局採寸に応じた。
「これで、勝手にどんどん色んな服や着物を作られちゃうわよ。」
私がそう脅すと、
「まさか、そんな……」
と、絶句していた。
母は、典型的な着道楽。
着物も洋服もおびただしい数を毎年新調し続けている。
もちろん私の服もお着物も、全て母と外商さんが勝手に作ったものばかりだ。
「百合子は、自分で服を選ばないの?興味ない?」
お茶を飲みながら碧生くんにそう尋ねられて、私は少し苦い気持ちになった。
……今まで誰にも言ったことのない……あの時あの場所に居合わせた人しか知らない、私の悔恨。
「昔は、母と同じように、おしゃれが大好きだったけど、今は……執着しないようにしてるかな。」
「なんで?」
思わず「内緒!」と言いたくなったけれど、それではフェアじゃないだろう。
あきらめて、話し始めた。
「はじめて由未さんとお会いした日、私のとっておきのワンピースを恭匡さんが由未さんにお貸してらしたのを見て……私、逆上して由未さんに酷いことしてしまったんです。」
あの日、全ての歯車が狂ってしまった。
私が最初から由未さんに優しく接していれば、仲良くしていれば……。
碧生くんは首をかしげた。
「そりゃ、やすまっさんが悪いよ。どうせ由未にいいかっこしたかったんだろうけど、女の子にとってドレスがどんなに大切か、まったくわかってないんだよ。」
きょとんとした。
私の言い方が悪かった?
自分を正当化するように事実を歪曲して伝えてしまったかしら?
「いえ、あの、悪いのは私なんです。」
慌ててそう言うと、碧生くんはそっと私の頭を撫でた。
「……かわいそうに、それでずっと自分を責めてきたんだね。まったく。子供なんだから、少しぐらい、手を出そうが言い過ぎようが、しょうがないじゃん。もう、自分を許してあげなよ。」
驚いた。
そんな風に、誰も言ってくれなかった……まあ、当事者以外に言ったこともないけれど。
泣きたいような、笑いたいような……。
「ありが……うござ……す。」
うまく言葉にならない。
碧生くんは、ふわりと私を抱きよせて
「さっきからずっと敬語だよ。萎縮しないでいいから。」
と言ったあと、もう一度頭を撫でてくれた。
くすぐったくて、少し気恥ずかしいけど、うれしかった。