今、鐘が鳴る
大きいけれど透明度は低めのエメラルドの中央から放射状に黒いラインが入っていた。
偉そうなしつらいの鑑定書は当然のように英語だったので、母は一瞥してすぐに閉じた。
「うれしいですけど、こんなに高価なお土産は受け取れませんわ。」
碧生くんは苦笑した。
「そんなに貫禄のある石、俺の周囲にはおばさまにしか似合いませんから。突き返されても困ります。」
確かに、このごたいそうな宝石を身につけて下品にならない人は少なそうだ。
母は黙って碧生くんを見つめた。
2人はしばらく無言でお互いを見ていたけれど、どちらからともなく微笑み合った。
「わかりました。ありがとう。いただきますわ。それがご実家の意志ですのね?」
「はい。」
碧生くんは力強くそう言ってから、私に笑顔を向けた。
かつての太陽のような笑顔じゃなくて慈愛の笑顔……以前、碧生くんが連れて行ってくれた秋篠寺の技芸天を思い出した。
「理想と価値観にこだわりすぎて、俺、百合子を置いてきぼりにして突っ走ってしまいました。プロポーズには相応の指輪を用意したい、って、ただの石や金属にこだわって、肝心の百合子を失ってしまったことに後から気づきました。」
それで何だか順番がちぐはぐだったのね。
「でも、あきらめませんから。何年かかっても。」
碧生くんがかっこよすぎて、胸が痛くなった。
「両親は仕事人間で浪費する時間もないので、家にどれぐらいの資産があるのか把握してませんでしたが、管財会社に預けて投資することもなかったので祖父の特許料はまるまる蓄財されてました。」
碧生くんは他人事のように淡々と語りはじめた。
「たぶん今後もそんな感じだろうと思います。とりあえずは兄と俺には毎年、非課税額内の贈与を続けてるようですが、消費が追いつかないので好きに使っていいと言われました。遺産相続でも生前贈与でも、どうせ俺の分は税金で持っていかれるので、両親が健在の間にこっちに家を建てることになりそうです。その時はおじさまの会社にお願いします。」
こっち、って日本?東京?京都?
「母はブランド品も宝石にも興味がないのですが、ちょうど兄が結婚を考えているようなので、銀行の数値を石に換えていく気になったようです。エンゲージリングは無課税なので。」
碧生くんは茶目っけたっぷりにウインクしてみせた。
アメリカ人モードの碧生くんだ。
「無課税だから何度もプロポーズするのですか?税金対策に?」
ついそう意地悪く聞いてしまった。
偉そうなしつらいの鑑定書は当然のように英語だったので、母は一瞥してすぐに閉じた。
「うれしいですけど、こんなに高価なお土産は受け取れませんわ。」
碧生くんは苦笑した。
「そんなに貫禄のある石、俺の周囲にはおばさまにしか似合いませんから。突き返されても困ります。」
確かに、このごたいそうな宝石を身につけて下品にならない人は少なそうだ。
母は黙って碧生くんを見つめた。
2人はしばらく無言でお互いを見ていたけれど、どちらからともなく微笑み合った。
「わかりました。ありがとう。いただきますわ。それがご実家の意志ですのね?」
「はい。」
碧生くんは力強くそう言ってから、私に笑顔を向けた。
かつての太陽のような笑顔じゃなくて慈愛の笑顔……以前、碧生くんが連れて行ってくれた秋篠寺の技芸天を思い出した。
「理想と価値観にこだわりすぎて、俺、百合子を置いてきぼりにして突っ走ってしまいました。プロポーズには相応の指輪を用意したい、って、ただの石や金属にこだわって、肝心の百合子を失ってしまったことに後から気づきました。」
それで何だか順番がちぐはぐだったのね。
「でも、あきらめませんから。何年かかっても。」
碧生くんがかっこよすぎて、胸が痛くなった。
「両親は仕事人間で浪費する時間もないので、家にどれぐらいの資産があるのか把握してませんでしたが、管財会社に預けて投資することもなかったので祖父の特許料はまるまる蓄財されてました。」
碧生くんは他人事のように淡々と語りはじめた。
「たぶん今後もそんな感じだろうと思います。とりあえずは兄と俺には毎年、非課税額内の贈与を続けてるようですが、消費が追いつかないので好きに使っていいと言われました。遺産相続でも生前贈与でも、どうせ俺の分は税金で持っていかれるので、両親が健在の間にこっちに家を建てることになりそうです。その時はおじさまの会社にお願いします。」
こっち、って日本?東京?京都?
「母はブランド品も宝石にも興味がないのですが、ちょうど兄が結婚を考えているようなので、銀行の数値を石に換えていく気になったようです。エンゲージリングは無課税なので。」
碧生くんは茶目っけたっぷりにウインクしてみせた。
アメリカ人モードの碧生くんだ。
「無課税だから何度もプロポーズするのですか?税金対策に?」
ついそう意地悪く聞いてしまった。