今、鐘が鳴る
でも本気で怒ってるわけではないことはわかったのだろう。
碧生くんは私の手を取って、恭しく口付けた。
「もしそう聞こえたのなら、ごめん。違うよ。百合子が何度断っても無駄って言いたかったの。手を変え品を変えチャレンジするだけ。」
「モノで歓心を買うのは嫌なんじゃなかったかしら?」
以前碧生くんがそんなことを言っていたような気がする。
碧生くんは衒(てら)いもなくうなずいた。
「こんな石で百合子が俺を選ぶとは思えない。ただの小道具だよ。でも、絶対あきらめないから。」
は、恥ずかしい。
思わず母を見たけれど、母は目をキラキラ輝かせて私たちを見ていた。
何だかおもしろがっているみたい。
「楽しそうですね。」
そう文句を言うと、母は満面の笑みを浮かべた。
「あら。娘が幸せになる過程をこんなに近くで見ることができるのですもの。楽しくて楽しくて仕方ないわ。」
幸せになれるとは碧生くんを選ぶとは限らないだろう、と思ったけど言っても無駄だろうから黙っていた。
翌日、碧生くんは私を連れ出した。
いつもの史跡巡りかと思ったら、亀岡からの保津川下り。
「珍しいわね。碧生くん、乗ってみたかったの?」
「ん~。まあ、おもしろそうだけど。これ、今は観光だけど、もともとは木材を都に運んでた水路だよ?」
そう言われて、やっと気づいた。
私が、水運に興味を示したから、わざわざ連れてきてくれたんだ。
「これも水運なのね。いつ頃からかしら?江戸時代ぐらい?」
私の質問に、碧生くんは首を振った。
「もっとずっと前。平安京よりさらに前。長岡京造営のために丹波から木を運んでたみたい。もちろん平安京の木材も、各寺院、御所、大阪城、伏見城、淀城、二条城なんかも、ね。」
平安京以前。
そんなに昔から?
乗船案内に従い、舟に乗った。
たくましく日焼けした若い漕ぎ手が前に、後ろにはベテランそうなおじいさん。
平日で人が少ないのか、私達は一番前に座った。
最初はのどかだった風景が、渓谷に入ると一転。
よくこんな細い川幅のところを進めるものだと呆れるほどのルートや、段差があきらかな小さな滝のようなルートを下っていく。
テレビで見る以上にスリルがあり、水をかぶった。
濡れるたびに楽しくなり、声を挙げてはしゃいだ。
途中にはラフティングのグループもいて、ボートを漕ぐだけじゃなくて、川に飛び込んでらしたり、楽しそう。
「来年の夏は、アレにしようか。も、京都の夏、暑すぎ。熱気が身体中にまとわりつく感じ。水に飛び込みたいよ。」
碧生くんの言葉にうなずいてから、気づいた。
来年もこうして、碧生くんと一緒にいる気がする。
思えば、不思議な確信。
当たり前のことじゃないのに。
信頼なのか、碧生くんに甘えてるのか。
どっちにしても、自分勝手な気がする。
ずるい女。
碧生くんは私の手を取って、恭しく口付けた。
「もしそう聞こえたのなら、ごめん。違うよ。百合子が何度断っても無駄って言いたかったの。手を変え品を変えチャレンジするだけ。」
「モノで歓心を買うのは嫌なんじゃなかったかしら?」
以前碧生くんがそんなことを言っていたような気がする。
碧生くんは衒(てら)いもなくうなずいた。
「こんな石で百合子が俺を選ぶとは思えない。ただの小道具だよ。でも、絶対あきらめないから。」
は、恥ずかしい。
思わず母を見たけれど、母は目をキラキラ輝かせて私たちを見ていた。
何だかおもしろがっているみたい。
「楽しそうですね。」
そう文句を言うと、母は満面の笑みを浮かべた。
「あら。娘が幸せになる過程をこんなに近くで見ることができるのですもの。楽しくて楽しくて仕方ないわ。」
幸せになれるとは碧生くんを選ぶとは限らないだろう、と思ったけど言っても無駄だろうから黙っていた。
翌日、碧生くんは私を連れ出した。
いつもの史跡巡りかと思ったら、亀岡からの保津川下り。
「珍しいわね。碧生くん、乗ってみたかったの?」
「ん~。まあ、おもしろそうだけど。これ、今は観光だけど、もともとは木材を都に運んでた水路だよ?」
そう言われて、やっと気づいた。
私が、水運に興味を示したから、わざわざ連れてきてくれたんだ。
「これも水運なのね。いつ頃からかしら?江戸時代ぐらい?」
私の質問に、碧生くんは首を振った。
「もっとずっと前。平安京よりさらに前。長岡京造営のために丹波から木を運んでたみたい。もちろん平安京の木材も、各寺院、御所、大阪城、伏見城、淀城、二条城なんかも、ね。」
平安京以前。
そんなに昔から?
乗船案内に従い、舟に乗った。
たくましく日焼けした若い漕ぎ手が前に、後ろにはベテランそうなおじいさん。
平日で人が少ないのか、私達は一番前に座った。
最初はのどかだった風景が、渓谷に入ると一転。
よくこんな細い川幅のところを進めるものだと呆れるほどのルートや、段差があきらかな小さな滝のようなルートを下っていく。
テレビで見る以上にスリルがあり、水をかぶった。
濡れるたびに楽しくなり、声を挙げてはしゃいだ。
途中にはラフティングのグループもいて、ボートを漕ぐだけじゃなくて、川に飛び込んでらしたり、楽しそう。
「来年の夏は、アレにしようか。も、京都の夏、暑すぎ。熱気が身体中にまとわりつく感じ。水に飛び込みたいよ。」
碧生くんの言葉にうなずいてから、気づいた。
来年もこうして、碧生くんと一緒にいる気がする。
思えば、不思議な確信。
当たり前のことじゃないのに。
信頼なのか、碧生くんに甘えてるのか。
どっちにしても、自分勝手な気がする。
ずるい女。