君を選んだから
ところが、急遽、当の兄貴が今晩中に帰って来れなくなった。

どっかの山奥でキツネだかサルだかの観察をしている内、どうやら帰るタイミングを逃したらしい。


寒空の中、ご苦労なことだけど、好きでやってるんだから、別に兄貴はどうでもいい。

だけど、いつも放っておかれる陽奈さんはどうなんだ?

本当に寂しくないのかな?


ここが俺にはいつも疑問で、多分、長い間、陽奈さんを諦められなかった最大の原因。

兄貴が不在の時でも、俺と知り合いなのをいいことに、母親が一人で過ごす陽奈さんを可哀想だとちょくちょく誘ってしまうから、嫌でも一緒に過ごす機会が出来上がる。


その度、陽奈さんへの想いが復活してしまうから、忘れるなんて無理だった。

隠したままでいる自分の気持ちと向き合うのが、辛くて辛くてたまらなかった。


そんな自分が嫌になり、わざと用事を作って逃げたこともあったけど、彼女を好きな気持ちは簡単には消せないし、家族なんだから、毎回そういう訳にも行かない。

中途半端に知り合いだったせいで、余計な苦しみを背負ってしまったようなものかな。

俺なら寂しい思いをさせないって言葉を、何度も何度も飲み込んだ。


そうしてダラダラと年月だけが過ぎて行き、気付けば、兄貴の彼女だった陽奈さんは婚約者になり、義理の姉になっていた。

ずっとそばにいたはずなのに、いつの間にか、どうしようもなく遠い存在になってしまった..........

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