君を選んだから
三月に入ってすぐ、私の送別会が開かれた。

会場はもちろん、いつもの焼き鳥屋さんだ。


須賀くんとは、相変わらず、挨拶と必要最低限の仕事上での会話しかできてなくて、せっかくの送別会なのに、近くに行きづらくて...........


だけど、ここでちょっとしたハプニングが起こった。

あまりにも、絶妙なタイミングで。


「彼女さん、異動しちゃうんすか? 寂しくなっちゃいますね。」

「へ?」

「あれ? まさか違うとか言いませんよね。いつもあんなにラブラブなのに。」

「はぁ..........。」


赤いTシャツの似合う小柄な大将が、須賀くんに思いがけない言葉をかけた。

すると、それに同調するかのように、今度は守谷さんが得意の毒を吐いた。


「そうなんですよ、大将。このカップル、すげー仲良いくせして、よりによってこのタイミングでケンカしてるんですよ。アホかって言うの。」

「そうだよね。何があったか知らないけど、俺らも、二人が仲良しなのを見て、いつもホッコリしてたから、やっぱり君らにはラブラブでいてほしいな。」


主任にまでそう言われたら、ちょっと泣きそうになった。

嬉しいのと、情けないのと、恥ずかしいのと、その他にもいろいろ。

営業所のみんなの優しさも思い出も、全部がごっちゃになって、一気に押し寄せて来たから。


そこまで言われて、何もしないのは本当のアホだ。

だから、帰り際、店の外に出た後、勇気を出して、須賀くんのスーツの裾を引っ張った。

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