エリートな彼と極上オフィス
控えめに押し戻すと、素直に離れていく。

そのままふらっと向こうへ行きそうになるのを、慌てて引き戻した。

すぐ後ろには、陶器の欠片があるからだ。



「わ、先輩、ちょっと…」



危なっかしい身体は、素直すぎるほど私の導きに従い、結果、私たちはドアを弾き飛ばして、もつれるように部屋に転げ込んだ。

入ってすぐのところにあるベッドに倒れ込んだのは、先輩が誘導したのか偶然なのか、わからない。


私は、上になった先輩に頭ごと抱きしめられており、そのせいで状況すらよく理解できずにいた。

とりあえず、重い。

いかにも酔っぱらいらしい加減のなさで、ぎゅうぎゅう締め上げるものだから、どぎまぎするよりも、苦しくて混乱した。



「うぇっ」



背中に回った手が、容赦なく襟を後ろに引き下げたので、ぐいっと喉元が締まる。

むき出しになった首のつけねに噛みつかれて、悲鳴が漏れた。


なんだこの仕打ち。

抱き寄せるのも噛むのも力任せで、泣きそうに痛い。

もうめちゃくちゃだ。


舌が耳のあたりを這い回るのから逃げたくて、身をよじるけどびくともせず。

乱暴にブラウスをスカートから引き出され、熱い手が脇腹をなでた時、私はようやく、そういうことか、と覚悟した。


やっぱりこれは、そういうことなのか。


息が上がっていた。

頭が混乱してもいた。

でも心の中は不思議と静かで、そうか、と何かがすとんとお腹に落ちた。


抵抗するのに必死だった手を、向こうの背中に回してみると、私の首筋に顔を埋めたままの先輩が、びくっと反応して。

一息のちに、ほっと安心したようにほどけ、優しく私を抱きしめた。


よしよし、となでてあげたい気分だった。

怪我をしている動物は凶暴だから、触っちゃダメよ。

そんな教えを思い出す。


仕方ない、これで癒えるのなら。

少しでも楽になるなら、私は力を貸しますよ。


許しを得たのがわかったのか、先輩からさっきまでの荒っぽさが消え、じゃれつくような動作になってきた。

とはいえやっぱり力のセーブが効かないようで、私は大型犬の相手をする時のような、あのやぶさかでない大変さを味わうはめになった。

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