エリートな彼と極上オフィス


「ちえのん!」

「うおっ、久しぶり」



地元のスーパーで、小学校時代の同級生に会った。

高校以降、呼ばれることのなかったあだ名が面映ゆいのを通り越して、普通に恥ずかしい。

当時から可愛らしかった彼女はすっかり美しい女性になっており、男の人を連れていた。



「いいなー丸ノ内OL」

「や、丸ノ内ではない」

「東京なら丸ノ内でしょ?」

「…丸ノ内って、東京全域を指す言葉じゃないよ?」



えっ! と本気で驚かれる。



「山手線の内側のことじゃなかったの」

「それ新しいなあ」



こんど使おう。

こんなびっくり仰天の誤解が実在するのだ、地方には。

まあ大方は彼女のパーソナリティによるものだろうと思いながら、一緒に店舗を出た。



「えーと、彼氏さん?」

「そんな感じ。ほら、挨拶」



後をついてくるように歩いていた男の人が、居心地悪そうに微笑んで会釈してくれる。

買い物袋の中身が完全なる日用品なのを見るに、一緒に暮らしているんだろう。


四つ辻で別方向へ行ったふたりの背中を見ながら、自分はもうそんな歳なんだな、としみじみ思った。

そういえばうちの両親が結婚したのは、今の私と変わらない年齢だ。

母に至っては、もっと若い。


おおお、とひとりで感心しつつ、ジーパンから携帯を引っ張り出す。

元旦の零時に送った、今年もよろしくお願いしますというメッセージに、先輩は一言、明けましておめでとう、と返してきただけだった。


喪中なのにおめでとうはダメでしょう。

でもまあ、よろしく、とは書けなかったんだろう。

その気持ちもわかる。

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