エリートな彼と極上オフィス
あの後どうなったかって?

もう、ぐっちゃぐちゃだ、ぐっちゃぐちゃ。


とりあえず先輩の後悔っぷりは半端なく、見てるこちらが気の毒になるくらいだった。

あの日は金曜日だったので、先輩が寝たのを見届けた私はタクシーで家に帰り、翌日、遅めの朝を迎えた。

時刻を見ようと手に取った携帯には、鬼のような着信履歴。


これは先輩が、前夜の記憶を失っていなかったという証拠にはならない。

なぜなら私は、戸締まりをするにあたって鍵を借りなければならず、そのことを本人に伝えないわけにはいかなかったからだ。


鍵はポストの中です、と携帯に入れたメッセージ。

そしてベッドの上の惨状。

これだけ揃えば、どんな寝起きの頭でも、夜中にあったことを想像するに難くない。


というわけでその土日は、定期的に先輩から着信があったけれど、私は出なかった。

メールならまだ冷静にやりとりできそうなものの、電話なんて、何を言えばいいかわからなかったからだ。


それとは逆に、先輩は頑なにメッセージを寄越さなかった。

なんとしても自分の口で謝りたいんだろう。

先輩らしいといえば、先輩らしい。



週明け、予想どおり先輩は朝早く出社して、私を待ち受けていた。

IMC室に入ると、電灯が自動的につく。

先輩はデスクのひとつで、人感センサーも反応しなくなるほどじっと考え事をしていたらしい。

ライトに反応してがばっと顔を上げ、次いで私に気づき、勢いよく立ち上がった。


向き合った私たちは、しばらくどちらも無言で。

やがて沈黙を破ったのは、先輩の震え声だった。



『お前、普段タートルなんか、き、着ないのに、なんで』

『絆創膏だとかえって目立つからですよ』



先輩の顔色は、卒倒するんじゃないかってくらい酷いものだった。

何か言おうとしては声を詰まらせて、咳払いみたいな音を立てる。



『湯田、その、ごめ…』

『謝られても困るだけなので、やめてください』

『だって、だってお前、お前…』



ストップ、と続きを手で遮った。

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