エリートな彼と極上オフィス
こんな母だが、初ボーナスでスカーフをプレゼントしたら、こんなお金あるなら貯金しなさいと涙声で電話をしてきた。

先輩にもう、そんなやりとりはないのだ。


どれだけ寂しいだろう。

どんなふうに寂しいんだろう。



『──は?』



だから、その、と先輩は目をうろうろさせて、言葉を濁す。



『つけた形跡、なくて…俺』



耳を疑った。

気にしてるのって、つまり。



『…結局、自分のことですか』

『なんでそうなるんだよ、お前のことだろ』

『自分でしょ、つまり、責任とらされるのが嫌なだけでしょ』

『そんなこと言ってない、お前の身体を心配してんのに、なんだよその態度』

『そっちこそ、その前に気に病むことあるでしょう、女と見りゃほいほい連れ込む癖がついてるから、こんなことになるんですよ』

『言っとくが俺は一度だってなあ、自分から誘ったことなんてねえぞ、今回だってお前、逃げられたって言ってたじゃねえか!』

『あんなおいしいチャンスで、逃げるわけないでしょうが!』

『逃げろよ、頼むから!』



そうですよね、逃げればよかったですよね。

そうすれば先輩に、こんな後悔をさせることもなかったのに。


なんて殊勝な思いも吹っ飛ぶほど、私は頭に来ていた。

この期に及んで、微妙に人のせいか!



『わかりました、私が悪かったですね、なので先輩は気にしなくていいですよ、忘れちゃってください、真面目に』

『そんなわけにいくかって言ってんだよ』

『しつこい』

『いいから、俺がちゃんとつけてたか、それだけ教えろ!』

『知りませんよ、そんなこと!』

『知らねえわけ…』



ゴホン、という咳払いで、はっと我に返った。

戸口のところで、なんともいえない顔つきで立っているのは、千明さんだった。

つかみ合いになる寸前だった私たちは、しばし呆然とし。

どれだけクリティカルな言葉を発していたか、双方記憶を探る、不思議な沈黙の間が空いた。

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