エリートな彼と極上オフィス
あの、と戸惑う私の荷物を手早くまとめて、千明さんは私の手を取り、戸口のほうへ引っ張っていった。

待てよ、とまた先輩が言う。

人が殴られるところを、初めて間近に見た私は、あんな衝撃的なものなのかと内心でまだ驚愕していた。

肉と骨がぶつかる、生々しい音。

千明さんが、ゆっくりと振り向いた。



『俺は待たないし、湯田ちゃんに言ってんなら“待ってください”だろ、お前、何様だよ』

『湯田を返せ』

『お前のもんじゃないと思うけど』

『てめえ、湯田に手出したら許さねえぞ』

『自分に言えよ』

『千明! 湯田には手を出すな、絶対だ』

『なあ山本』



お前、湯田ちゃんの何よ?


先輩は、もう一度殴られたように愕然として、何一つ言い返せなかった。

千明さんは少し前から、私のことを“いいなと思ってた”そうだ。

本当かどうかはさておき、そう言った。



──ね?

ぐっちゃぐちゃでしょ。



「そりゃ違うよ、分科会に任せる仕事じゃない」

「そのほうが角が立たないかと思ったんですが…」

「立てないようにするのも、IMCの仕事ってこと」



そうか…。

浅はかだったかと反省しながら腕組みすると、千明さんと目が合った。

IMC室と隣接する広報部のフロアも、原則としてはフリーアドレス制が敷かれているものの、中の人の違いか、ほとんど席は固定だ。

偉い人が好んで座る場所にはおいそれと近寄れないし、IMCほど個人プレイなわけでもないと、自然、そうなるらしい。

その一角にある打ち合わせ用のデスクが、現在私の仮机になっている。



「冬休みは、ゆっくりできた?」

「そうですね、実家でぼやんとしてました」

「山本から連絡あったの」

「ないです」



わかってるくせに、訊かないでくださいよ。

紙の上でインナー説明会の日程を組みながら、じろっとにらむと、千明さんは楽しげに笑った。

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