エリートな彼と極上オフィス
「なんですか」
「いや」
笑みを隠すように、口元に手を当てる。
そうしてPCを持ったほうの手で、というかPCで、私の頭をポコポコと叩いた。
「お前、可愛いなあ、ですか」
「うん、そう」
うおっ。
言ってみただけなのに、こうもあっさり肯定されると照れる。
先輩は噴き出し、顔赤いし、と笑った。
「お前ら、つきあっちゃえよー」
「棒読みですか」
千明さんが煙草をくわえて、だるそうにこちらを見る。
「見ててかったるいんだもん。湯田ちゃん、早くこの男と一回つきあって、幻滅して別れたらいいよ」
「志願してるのですが、受験票が送られてこないのですわ」
「願書が読めないんじゃないかな、言語が違うから」
「目の前で読み上げるくらいのことやるべきですかね?」
「そうだねー、それでも伝わるかどうか」
「お前ら、俺の前で俺の話を俺の話じゃないみたいにするの、やめてくんない?」
今日は一日かけてセミナーデイなので、各自プログラムの合間に休憩を取る。
結果的にいつもの昼休みよりゆっくり休めることになった私たちは、スペイン料理屋で昼からパエリアを囲んでいた。
「お前さあ、なんで湯田ちゃんを彼女にしてあげないの?」
「千明さん、いい質問ですがストレートすぎやしませんか」
「だってここ数日、セミナーの運営でくたくたでさ、言葉選ぶ余力もないのよ、おい山本」
食ってんじゃねえよ、とおしぼりを投げつけられた先輩は、エビの殻を慎重に剥いている最中だった。
顔に当たったおしぼりで、念入りに手と口を拭ってから投げ返す。
真っ赤な油で汚れたそれを、千明さんは危うく白いワイシャツで受けるところで、自分からやっておきながら、てめえと怒った。