エリートな彼と極上オフィス
「聞けよ」
「聞いてるよ、彼女にしちまったら、大事にできないじゃん」
エビを口に入れたまま、先輩は同意を求めるように私と千明さんを見て、ただちに雰囲気を察したようだった。
何事もなかった体を装って、おもむろに食事に戻る。
しばらく見守って、千明さんが声をかけた。
「ごめん、全然意味わかんなかった」
「いいよ、どうせ俺がまた、なんかズレてんだろ」
「そんな物わかりよくならなくていいから、説明してみな」
「いいって」
こうした話題において、自分の価値基準があまり共感を得てこなかったのを思い出したのか、先輩は急に心を閉ざしたようになり、語ろうとしない。
黙々と食べ続け、まさかの逃げきる気でいる様子の先輩を、千明さんは追い詰めることに決めたようだった。
「釣った魚に餌はやらない主義か何かか?」
「そういうわけじゃ、ないけど」
先輩が、ものすごく警戒しているのがいじらしい。
「お前にとって、“彼女”ってなんなわけ」
「何って」
ナプキンで口を拭きながら、お皿をじっと見て、眉をひそめた。
「…彼女は、彼女じゃねえ?」
「じゃあ彼女と、どんなことしてた?」
「いたの、けっこう前なんだけど」
「いいよ、とりあえず思い出してみて」
「俺が何言っても叩くんだろ」
「いいから思い出せっての」
業を煮やした千明さんに叱られて、先輩は不承不承といった表情で考え込み、やがて自信なさげに口を開く。
「大学内だったから、授業ない時は、会ったりするよな、メシ食ったり、勉強したり」
「するする」
「あと家にいても電話来たりするよな」
「来る来る、どんな話した?」
「さあ…学校のこととか、バイトのこととか」